東京地方裁判所 昭和46年(ワ)199号 判決 1971年10月26日
原告
有限会社内山商事
被告
一番交通第三株式会社
主文
被告は原告に対し金二七万〇四六〇円およびこれに対する昭和四五年一一月二九日以降支払い済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告と被告との間に生じたものはこれを三分し、その一を原告の、その二を被告の、各負担とし、補助参加により生じたものは被告の負担とする。
この判決の第一項は原告が金九万円の担保をたてたときは仮に執行することができる。
事実
第一請求の趣旨
一 被告は原告に対し金四〇万五六九〇円およびこれに対する昭和四五年一一月二八日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決および仮執行の宣言を求める。
第二請求の趣旨に対する答弁
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決を求める。
第三請求の原因
一 (事故の発生)
原告の従業員訴外杉山登および被告の従業員訴外淡路幸一は、次の交通事故を起した。
(一) 発生時 昭和四五年一〇月一七日午前四時三五分頃
(二) 発生地 東京都葛飾区東四つ木二丁目二番地先交差点
(三) 甲車 事業用普通乗用自動車(練五く八八〇一号)
運転者 訴外 淡路幸一
(四) 乙車 自家用貨物自動車(茨一せ九五七八号)
運転者 訴外 杉山登
(五) 態様 甲、乙車が、右交差点で出会頭に衝突したもの
二 (損害の発生および原告の支払)
右のような出合頭の衝撃により、乙車は斜走し、訴外下村電友舎製作所所有にかかる従業員寮、ブロツク塀等を損壊し、同社に金一三五万二三〇〇円の損害を負わせた。
原告は、昭和四五年一一月二八日右下村電友舎に対し、右損害金全額金一三五万二三〇〇円を支払つた。
三 (責任原因)
前記事故は、前記交差点が交通整理が行なわれていない見通しの悪い場所であるにも拘らず、杉山および淡路両名が徐行義務を怠つたまま交差点内に進入したため惹起されたもので(杉山は一方通行規制にも違反していた。)、しかも杉山は原告の、淡路は被告のそれぞれ自動車運転手として、同人らの業務中であつたから、同人らのそれぞれの使用者である原、被告は、右下村電友舎の損害を不真正に連帯して賠償しなければならない立場にあつた。
ところで、前記事故態様に鑑みると、被告は前記損害の三割を負担しなければならないところ、前記のとおり、原告が被告の負担分を含めて右下村電友舎に支払いをしているので、その分金四〇万五六九〇円を被告に対し求償する。
四 (結論)
よつて、原告は被告に対し、金四〇万五六九〇円およびこれに対する出捐以後の日である昭和四五年一一月二八日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
第四被告の事実主張
一 (請求原因に対する認否)
第一項の事実は認める。
第二項の事実は不知。
第二項の事実中、前記交差点が交通整理の行なわれていない見通しの悪い場所であること、杉山が徐行を怠り、しかも一方通行の規制に違反していたこと、杉山が原告の、淡路が被告の、それぞれ自動車運転手であつて、いずれもその業務執行中であつたことは認めるが、杉山に過失があつたとの点は否認する。
二 (事故態様に関する主張)
淡路は同交差点手前で徐行しながら交差点に進入したところ、一方通行の入口から、ライトを消して超スピードで同交差点に進入してきた杉山運転のダンプカーを発見し急制動の措置をとつたが間に合わなかつたものである。
第五証拠関係〔略〕
理由
一 (事故の態様と責任の帰属)
原告主張請求の原因第一項(一)ないし(五)の事実は当事者間に争いない。
そこで本件事故態様について検討する。
〔証拠略〕をあわせると次のような事実が認められる。
1 本件事故現場は、歩車道の区別のない幅員八・四米の南北に走る道路と歩車道の区別のない幅員六・三米の東西に走る道路との交差点である。そして同交差点の北東角は、高さ一・七米のブロツク壁があるため互いの見通しは悪い。
南北に走る道路は北方に向う方だけの一方通行規制がなされており、しかも同交差点に入る手前の南西角には一時停止の標識が設置されている。
2 訴外杉山登は一方通行違反であることを知りながら、交通閑散なのに気を許し、右交差点に向つて時速約四〇粁前後の速度で南進していたが、同交差点の約一五米手前で一たん照明を下向きに切り換え、左右からの車両の通行を確認しようとしたが、左右道路からのライトの光がないようであつたので通行する車両はないものと軽信し、減速することなく、漫然交差点に進入しようとしたところ、交差点中に入つてから左方から同交差点に進入しようとする甲車を発見しハンドルを左にきつたが間に合わず、乙車左前部と甲車右前部が衝突するに至つた。
3 一方、訴外淡路幸一は時速約四〇粁前後の速度で同交差点に向つて西進していたが、同交差点の約二〇米手前で一たんセカンドギアに入れかえて時速三〇粁前後に減速し、右方道路は一方通行であることを知つていたので、左方からの車両の通行の有無を確認しようとしたが、ライトの光がないようであつたので、走行してくる車両はないものと軽信し、交差点の約二・七米手前でアクセルを踏み込んだとほゞ同時に、右方から交差点に入ろうとしている乙車を発見し、急いで制動の措置をとり、ハンドルを左に切つたが間に合わず、甲車右前部を乙車左前部に衝突させた。
4 甲車は、右衝撃により右に斜走し、右交差点南西角の下村電友舎従業員寮にとび込んだ。
以上の事実が認められ、この認定を覆えすに足りる証拠はない。
右認定事実によると、甲車を運転していた訴外淡路は、本件事故につき、自動車運転手として遵守すべき交通整理の行なわれておらず見通しのきかない交差点に進入しようとするときには、予め徐行し、事故発生を未然に防止すべき注意義務を怠り漫然減速することなく交差点に進行した過失を犯し、そのため本件事故を惹起しているといわねばならない。
また、乙車を運転していた訴外杉山は、本件事故につき、自動車運転手として遵守すべき一方通行規制がなされ、反対方向への通行はしてはならない注意義務があるのに、漫然交通閑散なことを良いことに進行し、かつ交通整理が行なわれておらず、左右の見通しのきかない交差点に進入するに当つては、予め徐行し、事故の発生を未然に防止すべき注意義務を怠り漫然進行した過失を犯し、そのため本件事故を惹起しているといわねばならない。
ところで、被告が訴外淡路を自動車運転手として雇傭し、同人が被告の業務を執行中、本件事故が発生したものであることおよび原告が訴外杉山を自動車運転手として雇傭し、同人が原告の業務を執行中本件事故が発生したものであることは当事者間に争いがないから、前認定のとおり、杉山および淡路に過失が認定される以上、原、被告は共同不法行為者として、本件事故により第三者が蒙つた損害を不真正に連帯して賠償しなければならない立場にある。
しかし杉山および淡路の過失、道路状況、乙車が大型ダンプカーであることに鑑みると、被告と原告との過失割合は、被告二、原告八とするのが相当である。
二 (損害、原告の支払)
〔証拠略〕によれば、乙車は下村電友舎のブロツク壁をつき破り、そのうえ寮の壁や柱を折損し、浄化そうを破壊したこと、下村電友舎でその修理見積をさせたところ、大工小比木丈二は金一三五万二三〇〇円と見積つたこと、この種の見積りは人によつて多少の差異があることは免れないこと(保険会社の鑑定の査定は金一二五万六〇〇〇円であつたこと)、原告は昭和四五年一一月二八日下村電友舎に対し金一三五万二三〇〇円(破損した外釜代を含む)を支払つたことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。
そうすると、破損されたものが従業員の寮であつて早急な修理が要請されるから、他に安く見積る業者があるか否か、同人が早急に修理作業を行なつてくれるか否かをゆつくり探している時間的余裕はないから、右見積り額が不当に高いと認めることのできる証拠のない本件では、右金額が本件事故と相当因果関係にある損害とみるのが相当である(土木建築工事の入札の際には、どの程度で見積つて、請負うか、各業者に差異があることは公知の事実である)。
してみると、前記過失割合によると被告が負担すべきはそのうちの二割金二七万〇四六〇円であつて、被害者に支払いを終えた原告は、その分を被告に求償することができる。
三 (結論)
そうすると、原告は金二七万〇四六〇円およびこれに対する原告が下村電友舎に損害金を支払つた日の翌日である昭和四五年一一月二九日より支払済みまで年五分の割合による民法所定遅延損害金の支払いを求めうるので、原告の本訴請求を右限度で認容し、その余は理由なく失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、九四条を、仮執行の宣言について同法一九六条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 田中康久)